給与計算を外部委託する際の注意点と外部委託のメリット・デメリット

給与計算の外部委託は、業務負担を減らしながら生産性を高める取り組みです。

また、難解な法改正にもスムーズに対応できます。

ただし、デメリットや注意点がないわけではありません。

これらを無視すると、想定外のトラブルに発展するおそれがあります。

ここでは、給与計算を外部委託する際のメリット・デメリットや注意点を解説します。

全体像を理解したうえで、外部委託の必要性を検討したい方は参考にしてください。

このページの監修者
松下 省治
株式会社アイエーピー 代表取締役
専門は、国際税務、国際会計、国際組織再編。経歴はサン・マイクロシステムズ(株)およびSunMicrosystem Inc. 日本及び米国で勤務を行い、国際税務及び米国基準での会計に携わる。デル(株)経理財務部長として日本4社の経理部門の統括を行う。シトリックス・システムズ・ジャパン(株)日本および韓国法人の管理部門統括本部長。

給与計算の外部委託とは?

給与計算は、勤務時間などをもとに算出した総支給額から、社会保険料・所得税・住民税などの各種控除を減じて、従業員に支払う給与を算出する業務です。

給与計算の外部委託とは、これらの業務の大部分または一部を外部の事業者に委託することを指します。

委託先の候補とそれぞれの特徴は次の通りです。

委託先 特徴 
代行会社 小規模から大規模な会社まで対応しているケースが多い。また、給与計算に関連する業務にも幅広く対応している 
税理士 税の専門家。小規模な会社を対象としているケースが多い。顧問契約を必要とすることがある。税務相談などを行える点が魅力 
社会保険労務士 人事労務管理の専門家。小規模な会社を対象としているケースが多い。税理士と同じく、顧問契約を条件とすることがある。社会保険・労働保険関連の書類作成・提出手続きなどを行える点が魅力 

代行会社の中には、税理士サービスや社会保険労務士サービスを提供しているところがあります。

基本的には、これらの中から外部委託先を決めることになります。

給与計算を外部委託するメリット

給与計算の外部委託に期待できる主なメリットは次の通りです。

【主なメリット】

  • 社内の業務負担を軽減できる
  • 人件費や教育コストを削減できる
  • 法改正に速やかに対応できる

ここでは、各メリットについて解説します。

社内の業務負担を軽減できる

給与計算を外部委託すると、社内の担当者にかかる負担を軽減できます。

業務の大部分または一部を、外部委託先のスタッフが代行するためです。

これまでの担当者は、コア業務に集中しやすくなります。

結果的に、企業の生産性が高まることもあるでしょう。

給与計算を他の業務と兼務している場合に、より実感しやすいメリットです。

また、外部委託により、担当者に対する依存度も低くなります。

担当者が休職や退職した場合も、給与計算を滞りなく行えます。

この点も、外部委託を活用するメリットです。

人件費や教育コストを削減できる

給与計算の外部委託により、人件費や教育コストを抑えられます。

主な理由は次の通りです。

【コストを抑えられる理由】

  • 業務負担が減るため、残業代を削減できる
  • 専門的な知識をもった人材を確保する必要がなくなる
  • 専門的な知識を身につけるための教育が不要になる

具体的な効果はケースにより異なりますが、これらにより人件費や教育費を抑えられるケースが多く見られます。

ただし、外部委託を利用すると、新たに外注費が発生します。

コスト削減を期待している場合は、新たにかかる費用も踏まえたうえで検討を進めることが大切です。

法改正に速やかに対応できる

法令違反を防ぎやすくなる点も、給与計算を外部委託するメリットです。

給与計算には、労働基準法をはじめとするさまざまな法律が関わります。

これらの法律は、毎年のように改正されています。

専門家でないと、法改正の情報を素早く集めて、確実に対応することは困難です。

対応が遅れると、ペナルティを課されたり、従業員とトラブルになったりする恐れがあります。

ほとんどの外部委託先は、給与計算に精通したスタッフを配置しています。

関連する法律にも精通しているため、法改正に速やかに対応できます。

給与計算を外部委託するデメリット

給与計算の外部委託には、デメリットもあります。

主なデメリットは以下の通りです。

【主なデメリット】

  • 情報漏洩のリスクがある
  • 社内にノウハウを蓄積できない
  • 全ての業務を外注できるわけではない

続いて、これらのデメリットについて解説します。

情報漏洩のリスクがある

給与計算を外部委託すると、情報漏洩のリスクが高まります。

従業員の個人情報を、外部委託先へ提供することになるためです。

外部委託先の多くは適切な対策を講じていますが、すべての事業者が万全といえるわけではありません。

また、給与計算に関わるスタッフが、情報を漏洩させることも考えられます。

万が一、情報が漏洩すると、従業員からの信頼を失う恐れがあります。

以上のリスクを踏まえて、外部委託先を選定することが重要です。

情報漏洩に配慮した外部委託先の選び方は「給与計算を外部委託する際の注意点」で解説します。

社内にノウハウを蓄積できない

長期間にわたり業務の大部分を外部委託すると、自社だけで給与計算に対応できなくなる恐れがあります。

業務に必要なノウハウを、社内に蓄積できないためです。

また、外部委託をきっかけに給与計算の担当者を配置転換すると、これまで社内に蓄積したノウハウを活用できなくなります。

この点も、自社だけで給与計算に対応できなくなる理由といえるでしょう。

外部委託先が倒産やサービス提供の中止に至るケースもあるため、万が一に備えて従業員教育を継続し、委託範囲を管理するなどの対策が必要です。

全ての業務を外注できるわけではない

外部委託できる業務の範囲にも注意が必要です。

給与計算に関わる全ての業務を委託できるわけではありません。

従業員情報の登録・更新、勤怠データの管理など、外部委託には向かない業務もあります。

また、担当者間のやり取りも新たに発生します。

給与計算に関わる全ての業務を一任することは難しいでしょう。

外部委託先のスケジュールに合わせて業務を行わなければならない点もポイントです。

以前よりスケジュールがタイトになることもあります。

給与計算を外部委託する際の注意点

続いて、給与計算を外部委託するときに気をつけたいポイントを解説します。

関連記事:給与計算外注にかかる費用の相場|費用を抑えるコツと外注先の選び方

委託できる業務の内容や責任の範囲

外部委託できる業務は、事業者により異なります。

自社の希望と外部委託できる業務内容を照らし合わせて、適切な事業者を選ぶことが重要です。

たとえば、以下のケースなどが考えられます。

自社のニーズ 適切な委託先 
年末調整などの手続きを含めて給与計算を委託したい 税理士 
社会保険関係の手続きを含めて給与計算を委託したい 社会保険労務士 

上記のケースでは、税理士や社会保険労務士と提携している代行会社も選択肢に入ります。

再委託の有無も確認しておきたいポイントです。

第三者に委託すると、責任の所在が曖昧になりがちです。

再委託の可否や条件を契約書に明記しておくと、品質低下や情報漏洩などのリスクを管理できます。

対応している給与計算システムの種類

外部委託先が対応している給与計算システムを確認しておくことも大切です。

給与計算の代行は、自社の給与計算システムをそのまま利用できるケースと給与計算システムを新たに導入するケースに分かれます。

後者の場合、自社の環境に対応していないと、既存のシステムと連携できないなどのトラブルが起こり得ます。

外部委託によっては、業務効率が低下する場合もあるため注意が必要です。

個人情報保護やセキュリティの体制

給与計算では、従業員の重要な個人情報を扱います。

外部委託先の個人情報保護体制やセキュリティ体制を確認しておくことも欠かせません。

情報が漏洩すると、自社に責任がなかったとしても、社会的な信用を失う恐れがあるためです。

自社だけで外部委託先の評価が難しい場合は、Pマークや情報セキュリティに関する国際規格を取得している事業者を選ぶとよいでしょう。

一定レベル以上の個人情報保護体制、セキュリティ体制を確立していると考えられます。

過去の受託実績や口コミ・評判

外部委託先の受託実績をチェックしておくことも重要です。

実績豊富な事業者は、多くの企業から支持されていることから、質の高いサービスを提供していると考えられます。

自社とよく似た案件で優れた実績を残している事業者は、信頼性が特に高いといえるでしょう。

外部委託先の実績は、公式サイトなどで確認できます。

あわせて、口コミや評判もチェックしておくことをおすすめします。

公式サイトでは得られない情報を、集められることがあるためです。

たとえば、以前よりサービスの質が低下しているとわかることもあります。

事業者が発信する情報と口コミ・評判を確認することで、信頼できる外部委託先を見つけやすくなります。

費用の体系と効果

料金体系とコストパフォーマンスも確認しておきたいポイントです。

給与計算の費用は原則として以下の計算式で求められます。

  • 初期費用+月額費用+オプション費用

月額費用は「基本料金+従業員単価×従業員の人数」で算出します。

従業員単価の目安は、1人あたり1,000円程度です。

具体的な費用の算出方法や基本料金に含まれる業務、従業員単価などは、外部委託先で異なります。

したがって、申し込み前に料金体系を確認しておくことが重要です。

自社に適した料金体系を選ぶと、コストパフォーマンスを高められます。

対応の柔軟性やスピード

給与計算業務では、対応の柔軟性やスピードも求められます。

以下の特徴を備えているためです。

【特徴】

  • 期日内に業務を確実に完了させなければならない
  • イレギュラーな出来事が発生しやすい

イレギュラーな出来事の例として、従業員の入社、退社、早退、欠勤、住所の変更などが挙げられます。

対応の柔軟性やスピードを備えている外部委託先を選ぶことも重要です。

あわせて、担当者のレスポンスの早さも確かめておきましょう。

コミュニケーションを円滑に図れないと、業務をスムーズに進められないためです。

注意点に気をつけて給与計算を外部委託

本記事では、給与計算を外部委託するメリット・デメリット、外部委託する際の注意点を解説しました。

主なメリットは担当者の負担を軽減し、法改正にスムーズに対応できる点です。一方、主なデメリットは社内にノウハウを蓄積しにくい点です。

外部委託する際は、委託できる業務の内容や委託先の個人情報保護体制などに注意が必要です。

信頼できる外部委託先をお探しの方は、 iAPにご相談ください。

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必要な時間、必要なサービスだけご利用いただける点、ワンストップで税理士サービスや社会保険労務士サービスをご利用いただける点も特徴です。