人事業務をアウトソーシングするには?依頼できる内容や費用も解説

社員の給与計算や採用業務、人事評価業務などは、アウトソーシングすることが可能です。デメリットや依頼するときの流れを踏まえた上で、もし人事業務に課題を抱えている場合はアウトソーシングを検討しましょう。

給与計算や勤怠管理、社会保険に関わる業務など、人事に関わる仕事が負担になっている企業もあるでしょう。また人事業務には採用や人材育成も含まれ、さまざまなノウハウが必要です。人事業務の負担を減らすためには、人事のアウトソーシングが有効です。

当記事では、アウトソーシングできる人事業務の内容や依頼するメリット、人事アウトソーシングの流れなどを詳しく解説します。人事アウトソーシングを検討している方はぜひご覧ください。

1.人事業務はアウトソーシングできる?

人事部門の業務を外部の企業に委託することを「人事アウトソーシング」と呼びます。多くの業界で人手不足が叫ばれている現代において、アウトソーシングは社員の業務負担を軽減できる画期的な方法の1つです。

近年は特に採用に関する課題を感じている企業も多く、人事労務に特化したアウトソーシングの利用はさまざまなメリットが期待できます。人事労務とは社員をサポートする人事業務と、働きやすい環境を作るための労務管理業務を指し、人事アウトソーシングは人事と労務管理どちらの業務も委託できます。

厚生労働省の調査によると、平成18年時点ですでに企業の9割程度が採用についての課題を抱えていました。もっとも多い悩みは「思ったような人が採用できない」の41.6%で、人手不足に悩んでいる企業も24.4%と、ほぼ4社に1社の割合です。

過去3年間に採用業務のアウトソーシングを利用した企業の割合は、全体の4割弱です。従業員300人以上の規模を誇る企業に絞ると、アウトソーシング利用の経験は6割弱にのぼります。

製造業・非製造業で分けても、アウトソーシングに頼った業務内容に大きな差はありません。どちらの業種も、特にホームページやパンフレットの企画制作や適性検査の作成代行などが、アウトソーシングされています。

(出典:厚生労働省「働者の募集・採用に関する実態調査報告書(平成18年実施)」/https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/haken-shoukai08/pdf/04.pdf

2. 人事のアウトソーシングで依頼できる業務内容

人事のアウトソーシングでは、さまざまな業務を外部企業へ委託できます。日常的に発生するルーティンワークはもちろん、繁忙期に集中しやすい業務もアウトソーシングが可能です。

ここでは、具体的にどのような業務内容をアウトソーシングできるのか解説します。

給与計算

給与計算は、社員一人ひとりの給与の総支給額や控除額を計算し、支払う業務です。仮に基本給が同額の社員であっても、欠勤控除や手当の有無によって総支給額は異なります。給与計算担当者は、社員ごとに計算して正しい給与を支払う必要があります。

また、給与計算の仕事は各社員にいくら支払うかを計算するだけではなく、金融機関への振り込み手続きや社会保険料・税金を振り込む業務も含まれます。

給与は社員が得るべき権利で、労働への対価であり、1円のミスも許されません。各種法律や税金の仕組みを知らなくてはならず、自社で給与計算をすると担当者の負担は大きくなります。

勤怠管理

勤怠管理とは、社員の労働時間を把握・管理することです。正しく給与計算をするには、勤怠管理も適正である必要があります。

たとえば給与計算をする上で、出社・退社と出勤・退勤の違いを明確化することは重要です。出社・退社は会社やオフィスに来て自宅へ帰った時間であり、出勤・退勤は実際に業務を始め、終えた時間を指します。

勤怠管理では、出勤したか欠勤したかに加えて、労働時間にあたる部分や有給休暇の取得状況などを把握・管理する必要があります。勤怠管理は給与計算のほか、過重労働の抑止や適切な人材配置、労働生産性を向上するためにも重要な業務です。

業種や職種によっては労働時間の制約が緩和されることもあり、給与計算と同じく、社員一人ひとりの状況を正しく把握しなくてはならない大変さがあります。

社会保険業務

社会保険業務では、入社した社員の加入や毎年の保険料算定に関わる手続きを行います。退職者が出たときは、離職関連の手続きも発生します。

社会保険と一口に言っても、種類は健康保険や雇用保険、労災保険などさまざまです。各保険に関連する法律や手続き内容を理解していなければならず、担当者の業務負担は大きくなります。

たとえば退職にともなう業務は、各種保険の資格喪失を管轄機関に届け出たり、雇用保険被保険者離職証明書を発行したりする必要があります。また、育児休業の取得に関する手続きや法改正時の対応なども求められます。

採用業務

採用業務とは、自社に新たな人材を雇い入れるための一連の作業を指します。採用には新卒採用と中途採用の2種類あり、それぞれ目的が異なります。目的に応じた市場調査や自社分析を行い、戦略的に採用活動することが採用担当者に求められる仕事です。

採用活動には、母集団形成や書類・面接による選考、評価基準にもとづいた合否の決定に加えて、内定後のフォローも含まれます。

採用業務には、人を見る力はもちろん、採用に関連する法律の知識も必要です。担当者が知識不足の状態で求人票を出すと、法的に避けるべき表現を使用するおそれがあります。

人材育成

人材育成とは、教育によって社員一人ひとりの能力を向上させる業務のことです。各社員が高い能力を発揮できれば、企業全体の生産性向上につながります。

人材育成の特徴は、部署によって社員へ求める能力が異なることです。たとえば経営層は、社員に対して時代の変化へ柔軟に対応できるリーダーシップや変革意識を重視します。一方、現場では提案力や営業力、プレゼンテーション能力などが重視されます。

担当者は、自社が抱える課題を整理して、上層部と現場それぞれが求める成果につながる教育プログラムを立案しなくてはなりません。立場や目的に合わせた研修をしたり、OJTやeラーニングを取り入れたりと、自社に合った人材育成環境を整える必要もあります。

人事評価

人事評価とは、社員の労働生産性や企業の目標などを比較して、定期的に評価する業務です。各社員がどのような行動をとり、どの程度の成果をあげているのか実績をはかるだけでなく、個々の得手不得手を把握するために行われます。

人事評価の主な目的は、社員の業績を評価してモチベーションアップに役立てたり、人材育成に役立てたりすることです。内容や基準が社員にあらかじめ公開されており、ときには配置転換や賃金決定の参考となる場合もあります。 自社で人事評価を行う場合、公平性や透明性を意識しなくてはなりません。人事評価では客観的な視点が求められるため、担当者の精神的な負担が大きい業務と言えます。

3. 人事をアウトソーシングするメリット

人事関連の業務をアウトソーシングするメリットは、さまざまです。自社に専門的な知識や技術を有している人材がいなくとも、人事アウトソーシングを利用すればプロのサポートを得られます。

ここでは主なメリットを4つ紹介します。

社員が専門的な業務に専念できる

1つ目のメリットは、社員を専門的な業務に専念させられることです。

社員が担う作業は、コア業務とノンコア業務の2種類に大きく分けられます。コア業務とは直接業務とも呼び、企業の根幹にあたります。コア業務は難易度が高かったり専門判断が必要だったりする業務で、マニュアル化しにくいことが特徴です。

ノンコア業務とは、利益には直結しないものの、組織の業務遂行をサポートする業務全般を指します。専門的な判断を必要としない定型的な作業が多く、難易度が低いことが特徴です。顧客からの問い合わせ対応など、テンプレートやマニュアルを活用した業務がノンコア業務にあたります。

企業が円滑に収益をあげるためには、コア業務に人材や予算を集中させることが大切です。人事アウトソーシングを利用してノンコア業務を外部委託すれば、社員をコア業務へ投入でき、業務効率化がはかれます。

コスト削減できる

2つ目のメリットは、コスト削減が期待できることです。ノンコア業務に取り組む人材を自社で用意するとなると、継続的に給与や社会保険料などの費用が発生します。部署を縮小させようと思っても、一度雇い入れた人材は安易には解雇できません。

アウトソーシングなら必要なときのみ業務を任せられるため、コスト削減につながります。一年中ではなく、繁忙期など一定期間に限定して利用する方法もあります。

アウトソーシングも、利用時はある程度の予算が必要です。しかし、アウトソーシングは固定費が発生しない上に、採用にかける費用や手間も節約できるため、人材を一人雇うよりも安く済む可能性が高くなります。

法令への対応がしやすい

3つ目のメリットは、法令など専門分野への対応がしやすいことです。人事が関わる業務の中には、社会保険や福利厚生などの法改正が多い分野も含まれます。自社の担当者のみに任せると、度々行われる法改正に対応しつつ日々の業務もこなさなくてはならないため、ミスが発生するリスクが高まります。

人事アウトソーシングを利用すれば専門家に依頼できるため、前述のような段階的に行われる法改正にも素早く対応できます。

属人化のリスクがない

4つ目のメリットは、業務の属人化リスクを軽減できることです。業務の属人化は、さまざまな理由によって生じます。専門性が高い仕事や個々の業務量が多く共有する余裕がない状況では、業務の属人化が起こりやすい傾向にあります。

また、転職が一般化している現代においては、担当者の退職も現場が混乱する原因の1つです。最初から業務の一部をアウトソーシングしておけば、一部の社員にノウハウが集中する心配がなく、属人化による業務効率や品質の低下も防げます。

4. 人事をアウトソーシングするデメリット

人事業務のアウトソーシングは、前述の通り多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットもあります。自社の業務をアウトソーシングするときは、デメリットも理解した上で何を委託するのかを決めましょう。

ここでは主なデメリットを3つ紹介します。

自社にノウハウが蓄積されない

1つ目のデメリットは、自社にノウハウが蓄積されにくいことです。外部に人事業務を任せれば、給与計算や採用活動を担える人材が社内で育ちにくく、委託をやめたとたんに専門性や業務効率が低下するおそれがあります。

たとえば採用活動をアウトソーシングすると、どのような戦略で募集や採用を行ったのか、現在の転職市場や新卒者の傾向の特徴は何なのか把握できません。担当者が育たない上、新しい人材を雇い入れたときに受け継げるノウハウも少なくなります。

情報漏洩のリスクがある

2つ目のデメリットは、委託する業務によっては情報漏洩のリスクがあることです。アウトソーシングを利用するとき、社員の個人情報や業務上の機密情報を共有する場合もあります。重要な情報にアクセスできる人物が増えれば、比例して漏洩リスクが高くなる点に注意しましょう。

仮に漏洩の原因が委託先にあったとしても、アウトソーシングを利用した依頼主側の責任となります。セキュリティ体制や情報の取り扱い方など、アウトソーシング先の信頼性を多角的に評価した上で委託することが大切です。

情報の一元管理が難しくなる

3つ目は、情報を一元管理しにくいことです。人事業務では、社員に関するさまざまな情報を把握・管理する必要があります。たとえばどのような職歴で、どのようなスキルや資格を有しているのか、自社とのエンゲージメントは問題なく構築されているのかなど、多くの情報を集めます。

自社で人事業務をすると、あらゆる情報が社内で一元管理できる上に参照も容易です。しかし、アウトソーシングを活用すると委託先に情報が蓄積されるため、必要なときに素早く利用できません。

委託先にノウハウのみならず情報管理も依存することがないように、情報共有の仕組み作りが必要です。

5. 人事のアウトソーシングを依頼するときの費用相場

人事アウトソーシングには、いくつかの料金システムがあります。月額性・年額性を取り入れている場合のほか、業務ごとに費用が決められているところもあるので、自社の費用感に合った委託先を見つけましょう。

月額性・年額性はランニングコストが把握しやすい一方で、繁忙期以外は委託する業務量に費用が見合わない場合があります。業務ごとに依頼する場合は閑散期に無駄な費用を払わずに済みますが、初期費用を別途支払うなど料金体系が複雑化しやすいです。

コストの例をあげると、給与計算は社員一人あたり月1,000円程度です。アウトソーシングに人事業務全般を依頼する場合の相場は、月7万~10万円程度です。

委託先によっては社員数でかかるコストが異なり、月1,000円程度で収まらないケースがあります。また「どのような業務を依頼するか」も料金を変動させる要素の1つで、たとえば給与計算業務を依頼する場合、明細書の発行や年末調整業務の代行など一部の業務はオプション扱いになることもあります。

6. 人事アウトソーシングを依頼する際のステップ

人事アウトソーシングを依頼する際は、前述のメリット・デメリットを踏まえて委託先を決めましょう。また、以下3つのステップに沿って情報を整理することも、委託先選びには欠かせません。

人事アウトソーシングの委託先を依頼する際のステップを、3つに分けて紹介します。

社内の課題を洗い出す

まず、自社がどのような課題を抱えているのかを洗い出します。人事関連の業務であげられやすい課題は、下記の5つに分類できます。

  • 人材採用
  • 人員配置
  • 人材育成
  • 人事評価
  • 離職防止

新卒や中途採用で人材が思うように集まらなかったり、長く在籍している中堅社員の育成に悩んだりしているケースは少なくありません。社員の生産性が向上しない場合、そもそも人員配置が本人の能力や適性に合っていない可能性も考えられます。

人事評価制度が浸透していない場合や社員が納得していない場合は、評価基準や項目の見直しが必要です。人材配置や人材育成がうまくいかないと、早期離職のリスクが高まります。

また、上記5つの課題に加えて人事の担当者自体が人手不足である可能性もあります。

アウトソーシングを行う業務を検討する

社内の課題を洗い出したら、自社が抱えている課題をもとにアウトソーシングを行う業務を決定します。たとえば人事担当者の人数が不足している場合、給与計算や勤怠管理など毎月発生する業務を外部に依頼すると現場の負担が軽減できます。

ランニングコストを抑えたいのであれば、年末調整やストレスチェックといった一定期間のみ発生する業務をアウトソーシングに回す方法もおすすめです。

企業の規模によっては、一部の業務のみならず部門部署の機能単位でアウトソーシングする方法もあります。経理全般や労務全般などチームごと外部に委託することで、品質を担保できます。

アウトソーシング先を選ぶ

外部に依頼する業務の範囲が決まったら、アウトソーシング先を選定します。アウトソーシング先を選ぶときのポイントは、依頼できる業務内容を確認することです。人事労務と一口に言っても、サービスを提供する会社ごとに対応業務は異なります。

相場情報の例であげた通り、会社によっては給与計算業務で明細書の発行や年末調整業務の代行がオプション扱いになる場合があります。想定外のコストを回避するためには、「依頼している業務をすべてカバーしているか」「業務の一部のみカバーしている場合は予算内でオプション追加できるか」を事前に確認しておくことが大切です。

また、アウトソーシング先を選ぶ際は、費用に加えて導入実績やセキュリティ体制もチェックしましょう。「どのようなセキュリティ体制をとっているのか」「社員教育は徹底されているのか」を確認して、信頼できるアウトソーシング先を見つけましょう。

まとめ

人事業務をアウトソーシングすることで、コストを削減できたり、属人化のリスクを抑えたりできます。給与計算や勤怠管理などの人事業務や採用業務、人事評価や育成を依頼できる会社もあるため、どの業務が社内の負担になっているかを把握した上で、依頼内容を検討しましょう。

ただし、人事アウトソーシングを依頼すると情報漏洩のリスクが高まるほか、人材の情報を一元管理することが難しくなります。人事業務を外部に依頼する際は、外部の会社に依存せずにアウトソーシングできる仕組みを作りましょう。