多国籍企業グループの税負担に世界共通の「下限」を設ける——OECD/G20が主導するグローバルミニマム課税(第2の柱:Pillar Two)が、日本でも段階的に法制化され、実務対応が本格化しています。2024年4月からは所得合算ルール(IIR)が、2026年4月からは国内ミニマム課税(QDMTT)と軽課税所得ルール(UTPR)が適用開始となり、対象企業は決算・申告体制の見直しを迫られています。
本記事では、グローバルミニマム課税の背景と3つのルールの仕組み、日本での適用時期、そして経理・財務・管理部門が今から備えるべきポイントを整理します。
グローバルミニマム課税が導入された背景
グローバルミニマム課税は、OECD/G20の「BEPS(税源浸食と利益移転)包摂的枠組み」で合意された国際課税ルールの見直し(2つの柱)のうち、第2の柱にあたります。デジタル化・グローバル化の進展により、企業が軽課税国・タックスヘイブンへ利益を移転して税負担を圧縮する動きが問題視され、「どこで事業を行っても最低限15%は課税される」状態を各国協調で作り出すことが狙いです。
これにより、税率の引き下げ競争(法人税の底辺への競争)に歯止めをかけ、実効税率が15%に満たない国の所得については、差額(トップアップ税額)を関係国が課税できる仕組みが整えられました。
対象となる企業
グローバルミニマム課税の対象は、原則として直前4会計年度のうち2会計年度以上で連結総収入金額が7億5,000万ユーロ(約1,100億円規模)以上の多国籍企業グループです。国内の中小企業や、海外拠点をもたない企業が直接の対象になることは基本的にありませんが、そうしたグループの一員である日本法人は影響を受けます。
判定は「グループ単位」で行われるため、自社単体の規模が小さくても、親会社を含むグループ全体が基準を超えれば対象となる点に注意が必要です。
3つのルールの仕組み
グローバルミニマム課税は、課税の「取りこぼし」を防ぐため、優先順位の異なる3つのルールで構成されています。国ごとの実効税率(ETR)を計算し、それが基準税率15%を下回る場合に、不足分(トップアップ税額)を課税します。
IIR(所得合算ルール)/各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税
IIR(Income Inclusion Rule)は、軽課税国にある子会社等の実効税率が15%を下回る場合に、その不足分を親会社の所在国で親会社に対して合算課税する仕組みです。日本では「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」として令和5年度税制改正で法制化され、2024年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されています。3つのルールのうち最初に導入された、いわば中心的なルールです。
QDMTT(国内ミニマム課税)/各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税
QDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)は、自国内にある構成会社の実効税率が15%に満たない場合に、他国のIIR・UTPRに優先して自国がその不足分を課税する仕組みです。トップアップ税額を海外に持っていかれる前に自国で確保する趣旨で、日本では「各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税」として令和7年度税制改正で法制化され、2026年(令和8年)4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されます。
UTPR(軽課税所得ルール)/各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税
UTPR(Undertaxed Profits Rule)は、IIRでは課税しきれなかった残余のトップアップ税額を、UTPRを導入した国に所在する構成会社に配分して課税する「補完的」ルールです。親会社の所在国がIIRを導入していない場合などの取りこぼしを防ぎます。日本では「各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税」として、QDMTTと同じく2026年4月1日以後開始対象会計年度から適用されます。
この3つが組み合わさることで、グループのどこかで実効税率が15%を下回れば、いずれかの国が確実にトップアップ税額を課税できる構造になっています。
日本企業が今から備えるべきこと
グローバルミニマム課税への対応は、税務部門だけで完結しません。実効税率の計算には、各国子会社の会計データ・税務データを国別に集約する必要があり、経理・情報システム・海外拠点を巻き込んだ体制づくりが不可欠です。実務上、次のような準備が求められます。
まず、自社グループが対象になるかの判定です。連結総収入金額の基準を継続的にモニタリングし、対象となる場合は情報収集の対象拠点を洗い出します。次に、国別の実効税率の試算です。各国のGloBE所得と対象租税を集計し、15%を下回る国(トップアップ税額が生じうる国)を特定します。あわせて、適用免除の要件(デミニマス除外や、移行期の国別報告書セーフハーバーなど)に該当するかも確認します。
さらに、申告・情報申告への対応も必要です。グローバルミニマム課税では、GloBE情報申告書(GIR)の提出が求められ、提出期限や記載事項は通常の法人税申告とは別建てで管理する必要があります。これらを見据え、決算スケジュール・システム・人員体制を早期に整えておくことが、円滑な対応の鍵となります。
まとめ:15%の「下限」を前提とした国際税務体制へ
グローバルミニマム課税は、IIR(2024年4月〜)に続き、QDMTT・UTPR(2026年4月〜)が加わることで、いよいよ本格運用の段階に入ります。対象となる多国籍企業グループは、国別の実効税率を継続的に把握し、GloBE情報申告に対応できるデータ集約・計算体制を整えることが急務です。
制度は毎年の税制改正やOECDのガイダンスによって細部が更新されるため、最新情報のキャッチアップも欠かせません。国際税務・国際会計にまたがる高度な対応が必要となるこの分野では、専門家の伴走支援が有効です。iAPでは、US GAAP/IFRSにも精通したバイリンガルの会計・税務チームが、グローバルミニマム課税の影響試算から申告対応までをワンストップで支援します。
本記事の掲載内容は、一般的な情報の提供を目的としたものであり、法律的またはその他の専門的なアドバイスを構成するものではありません。グローバルミニマム課税の要件・基準・適用時期は改正される場合があり、本記事は2026年7月時点の情報に基づいています。情報の正確性には細心の注意を払っておりますが、その内容を保証するものではありません。ご利用に際しては、個別の事情に応じて専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断と責任において情報をご活用ください。
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