2026年は、給与計算の実務にとって変更点が特に多い年です。所得税の「年収の壁」見直しにともなう控除額の改正、社会保険の適用拡大、子ども・子育て支援金の徴収開始と、給与担当者が対応すべき制度変更が年間を通じて続きます。準備が遅れると、控除ミスや従業員への説明不足につながりかねません。
本記事では、税務・労務を専門とする立場から、2026年の給与計算に影響する主な改正を時系列で整理します。人事・総務・経理の給与担当者に向けて、実務のポイントをわかりやすく解説します。
動向1:「年収の壁」見直しと所得税控除の改正
2026年の給与計算で最も広く影響するのが、所得税の控除見直しです。基礎控除や給与所得控除の引上げが進み、いわゆる「年収の壁」を意識した制度設計が変わります。
具体的には、給与所得控除の最低保障額が引き上げられ、従来の65万円から69万円になります。これにより、給与収入が一定以下のパート・アルバイトなどの課税所得が圧縮され、手取りに影響します。あわせて、配偶者控除についても、配偶者の給与収入が136万円以下(給与所得控除を差し引いた合計所得金額が62万円以下)であれば適用される方向へと見直しが進みます。課税最低限の引上げなど、「働き控え」を緩和する方向の改正が続いており、扶養の判定基準が変わる点に注意が必要です。
これらの改正は、令和8年分(2026年12月に実施する年末調整)から反映されるものが中心です。給与ソフトの税額表・控除設定のアップデート、扶養控除等申告書の記載内容の確認など、年末に向けた準備が欠かせません。
動向2:社会保険の適用拡大(2026年10月)
2026年10月には、社会保険(厚生年金・健康保険)の適用拡大が実施されます。これにより、これまで加入対象でなかった短時間労働者(パート・アルバイト)が新たに加入対象となるケースが大きく広がります。
ポイントは、加入の主な基準が「週の所定労働時間20時間以上」に整理されることです。従来は「月額賃金8.8万円以上(年収106万円相当)」という賃金要件がありましたが、最低賃金の全国的な上昇により、週20時間働けば多くのケースでこの水準を超えるようになったことから、賃金要件は廃止される方向です。また、特定適用事業所の企業規模要件(従業員数)についても段階的な見直しが進んでいます。
適用拡大は、従業員本人の手取りだけでなく、企業側の社会保険料負担にも直結します。対象となる従業員の洗い出し、本人への説明、労働時間の管理体制の整備を、10月の施行前に済ませておく必要があります。
動向3:子ども・子育て支援金の徴収開始
2026年からは、少子化対策の財源となる「子ども・子育て支援金」の徴収が始まります。これは健康保険料に上乗せする形で徴収されるもので、労使折半(従業員負担分は0.23%程度からスタート)で控除が行われます。給与明細上の控除項目が増えるため、従業員からの問い合わせに備えた説明準備が求められます。
企業にとっては、従来からの子ども・子育て拠出金(会社が全額負担)に加え、新たな支援金の事業主負担も発生し、法定福利費の増加要因となります。40歳以上の従業員では介護保険料も加わるため、給与に対する法定コストの割合は総じて上昇します。人件費計画への織り込みが必要です。
支援金の負担割合は制度の開始後、段階的に引き上げられていく設計とされています。初年度の水準だけを見て人件費を固定的に見積もると、翌年以降にズレが生じるため、複数年を見据えた法定福利費のシミュレーションが望まれます。給与明細のレイアウトや控除項目名の設定も、従業員が誤解しないよう分かりやすく整えておくとよいでしょう。
動向4:最低賃金の上昇と労務コスト
給与計算の前提となる最低賃金も、全国的な上昇が続いています。全ての都道府県で時給が一定水準を超える状況となり、パート・アルバイトの時給設定や、前述の社会保険適用拡大とも密接に関係します。最低賃金の改定時期(多くは秋)には、対象者の時給が下回っていないかの確認と、必要な引上げ対応を確実に行う必要があります。
こうした改正が積み重なることで、企業が負担する法定コスト(社会保険料・拠出金・支援金など)は、給与額に対して相応の割合を占めるようになっています。給与計算の担当者は、単に額面を計算するだけでなく、これらの法定コストを含めた総額での管理が求められます。
加えて、扶養や社会保険の判定基準が同時期に動くことで、従業員からの「働き方をどう調整すればよいか」という相談も増える傾向があります。とくにパート・アルバイトが多い職場では、年収の壁の見直しと社会保険適用拡大の両方をわかりやすく説明できる資料を用意しておくと、現場の混乱を防げます。制度の正確な理解にもとづく丁寧な情報提供が、従業員の納得感と定着にもつながります。
給与担当者がいま準備すべきこと
2026年の給与計算に向けて取り組むべきポイントを、時系列で整理します。年前半は、子ども・子育て支援金の徴収開始に合わせた給与ソフトの設定変更と明細項目の追加。秋(10月)に向けては、社会保険の適用拡大対象者の洗い出しと本人説明、労働時間管理の整備。そして年末には、所得税控除の改正(給与所得控除・配偶者控除の見直し)を反映した年末調整の準備です。あわせて、最低賃金の改定への対応も忘れてはいけません。
制度変更が年間を通じて分散しているため、施行時期ごとにチェックリストを用意し、計画的に対応することが実務のカギになります。
まとめ
2026年の給与計算は、「年収の壁見直しによる所得税控除の改正」「社会保険の適用拡大(10月)」「子ども・子育て支援金の徴収開始」「最低賃金の上昇」という複数の改正が重なる年です。いずれも、従業員の手取りと企業の法定コストの双方に直接影響します。
当事務所では、給与計算・源泉徴収の実務、年末調整、社会保険手続き、法改正を踏まえた労務コストの試算まで、実務に即したサポートを提供しています。給与計算や労務の実務についてお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 2026年の年末調整で何が変わりますか?
給与所得控除の最低保障額が65万円から69万円へ引き上げられるなど、所得税の控除が見直されます。配偶者控除の判定基準も見直しが進むため、令和8年分の年末調整で反映内容を確認する必要があります。
Q. 社会保険の適用拡大はいつからですか?
2026年10月に実施されます。加入の主な基準が「週所定労働時間20時間以上」に整理され、従来の月額賃金8.8万円という賃金要件は廃止される方向です。
Q. 子ども・子育て支援金とは何ですか?
少子化対策の財源として、健康保険料に上乗せして徴収される新たな負担です。2026年から徴収が始まり、労使折半で控除されます。企業側の事業主負担も発生します。
Q. 給与担当者はいつ何を準備すべきですか?
年前半は子育て支援金の徴収開始に伴うソフト設定、秋は社会保険適用拡大の対象者洗い出しと説明、年末は所得税控除改正を反映した年末調整、が主なスケジュールです。最低賃金改定への対応も必要です。
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