日本企業のグローバル化が進むなか、IFRS(国際会計基準)を取り巻く環境は2026年に入って大きく動いています。任意適用企業は300社を超え、サステナビリティ開示の義務化、保険・金融分野の新基準対応、そして政策保有株の削減といったテーマが同時進行で経営の意思決定に影響を与えています。
本記事では、国際会計・国際税務を専門とする立場から、2026年時点で押さえておくべきIFRSの最新動向を整理します。海外子会社を持つ企業、これからIFRS導入を検討する企業、上場を目指す企業の実務担当者に向けて、要点をわかりやすく解説します。
そもそもIFRS(国際会計基準)とは
IFRS(International Financial Reporting Standards=国際財務報告基準)は、国際会計基準審議会(IASB)が策定する会計基準で、世界140以上の国・地域で採用されています。企業の財務諸表を国際的に比較可能なものにすることを目的としており、原則主義(プリンシプル・ベース)を採用している点が、細則主義の日本基準や米国基準と大きく異なります。
日本では2010年3月期から任意適用が認められ、上場企業は「日本基準」「米国基準」「IFRS」「修正国際基準(JMIS)」の4つから会計基準を選択できます。強制適用はされていないものの、海外投資家からの評価向上や、グループ内の会計基準統一といったメリットから、採用企業は着実に増加してきました。
動向1:日本のIFRS任意適用は315社に到達
日本取引所グループ(JPX)の公表データによると、2026年7月時点でIFRSを適用済みの会社は295社、適用を決定している会社は20社で、合計315社に達しています。これは制度導入初期からみれば大きな伸びですが、東証上場企業約3,900社に対する比率でみると依然として1割弱にとどまっており、「大企業・グローバル企業を中心に浸透しているが、全体では発展途上」という段階です。
任意適用が拡大している背景には、次のような要因があります。第一に、海外M&Aや海外売上比率の高い企業にとって、子会社と親会社の会計基準を統一できるメリットが大きいこと。第二に、のれんを毎期償却しない(減損テストのみ)というIFRSの特徴が、M&Aを積極的に行う企業の利益に有利に働く場合があること。第三に、海外の機関投資家に対して財務情報の比較可能性を高められることです。
直近でも、たとえば安川電機が2026年3〜5月期の連結決算をIFRS(国際会計基準)ベースで開示し、売上収益が前年同期比10.6%増の1,389億円となったことが報じられました。このように、IFRSは「特別な企業だけのもの」ではなく、製造業を含む幅広い日本のグローバル企業にとって標準的な選択肢になりつつあります。
動向2:サステナビリティ開示の義務化(ISSB/SSBJ)が本格始動
2026年のIFRSを語るうえで最大のトピックが、サステナビリティ情報開示の制度化です。IFRS財団の下部組織であるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定したIFRS S1・S2をベースに、日本ではSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が2025年に日本版の開示基準を確定しました。世界的にも、IFRS財団が各国でISSB開示のトレーニング体制を整備するなど、サステナビリティ開示の標準化が急ピッチで進んでいます。
日本では2026年に開示府令が改正され、SSBJ基準に基づくサステナビリティ開示が有価証券報告書のなかで制度化されました。適用は企業規模に応じた段階方式で、2026年3月末時点の平均時価総額が3兆円以上の企業は2027年3月期から、1兆円以上の企業は2028年3月期から、SSBJ基準の適用が求められます。当初はプライム市場の大企業から始まり、順次対象が拡大していく見込みです。
実務上の負担を緩和するため、適用初年度とその翌年度については「二段階開示」の経過措置が設けられています。これは、有価証券報告書の提出時点ではSSBJ基準に完全準拠した記載を行わず、後日の訂正報告書によって開示を完成させることを認めるもので、初期対応の時間的猶予を確保する狙いがあります。
サステナビリティ開示は、財務諸表本体だけでなく気候変動リスクや温室効果ガス排出量(スコープ1〜3)など非財務情報にも及びます。データ収集体制の構築や第三者保証への対応など、経理・財務部門だけで完結しない全社的なプロジェクトになる点に注意が必要です。
動向3:IFRS17(保険)・IFRS9(金融)の実務論点
業種特有の基準についても、2026年は対応が加速しています。保険業界では、保険契約を対象とするIFRS17への移行が各国で進み、財務諸表の比較可能性が高まる一方、外貨建て契約の為替リスク管理や資産・負債の一体的なマネジメントが信用力評価のカギとなっています。台湾など、IFRS17の新制度移行に伴う保険会社の信用トレンドが注目される市場も出てきています。
金融業界では、金融商品を扱うIFRS9に関して、銀行の引当(貸倒引当金)モデルが論点となっています。地政学リスク、気候変動、インフレといった新たな不確実性に対し、予想信用損失(ECL)モデルをどう調整するかが問われており、大手監査法人も対応の重要性を指摘しています。将来予測を織り込む引当の考え方は、日本基準に慣れた実務担当者にとって特にギャップが大きい領域です。
動向4:政策保有株の削減とIFRSの関係
コーポレートガバナンス改革の文脈で進む「政策保有株(持ち合い株)の削減」も、IFRSと密接に関係しています。大手損害保険会社が兆円単位で政策保有株を売却し、その資金を海外投資に振り向ける動きが報じられていますが、IFRSでは資本性金融商品の評価差額の会計処理(FVTOCI/FVTPLの選択)が損益やその他の包括利益に影響します。保有方針の転換は、単なる投資戦略ではなく、財務諸表上の見え方にも直結するテーマなのです。
日本企業がいま準備すべきこと
こうした動向を踏まえると、海外展開企業やIFRS適用(検討)企業が2026年に取り組むべきポイントは次の通りです。まず、自社が将来的にSSBJ基準の適用対象になるかどうかを時価総額基準で確認し、対象であれば早期にサステナビリティ情報の収集体制を整えること。次に、IFRSと日本基準の差異(のれん、収益認識、金融商品、リースなど)を洗い出し、移行コストと効果を定量的に評価すること。そして、開示の第三者保証や監査対応を見据え、社内の管理プロセスとデータの信頼性を高めておくことです。
まとめ
2026年のIFRSは、「任意適用の着実な拡大(315社)」「ISSB/SSBJによるサステナビリティ開示の義務化」「IFRS17・IFRS9など業種別基準への対応」「政策保有株削減との連動」という4つの潮流で捉えることができます。いずれも、海外に事業を持つ日本企業の会計・開示実務に直接影響するテーマです。
当事務所では、国際会計・国際税務の専門家として、IFRS導入の可否判断から差異分析、サステナビリティ開示体制の構築、海外子会社を含む連結決算の高度化まで、実務に即したサポートを提供しています。IFRS対応や国際税務についてお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. IFRSは日本の上場企業に強制適用されますか?
2026年時点で、日本ではIFRSの強制適用は行われていません。上場企業は日本基準・米国基準・IFRS・修正国際基準(JMIS)から選択でき、IFRSは「任意適用」です。ただしサステナビリティ開示(SSBJ基準)は、一定規模以上のプライム上場企業に段階的に義務化されます。
Q. IFRS任意適用企業は現在何社ありますか?
日本取引所グループの公表データによると、2026年7月時点で適用済み295社・適用決定20社の合計315社です。東証上場企業全体に占める比率は1割弱です。
Q. SSBJ基準はいつから適用されますか?
2026年3月末時点の平均時価総額が3兆円以上の企業は2027年3月期から、1兆円以上の企業は2028年3月期から適用されます。適用初年度等には「二段階開示」の経過措置があります。
Q. IFRSを導入する主なメリットは何ですか?
海外子会社との会計基準統一、海外投資家への比較可能性の向上、のれんの非償却などが挙げられます。一方で、移行コストや継続的な実務負担というデメリットもあるため、自社の海外展開状況を踏まえた判断が重要です。
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