グループ内貸付金利と移転価格税制|税務調査で問われる「独立企業間価格」とCost of Fundsアプローチ

本記事は移転価格税制に関する一般的な解説であり、個別の税務判断・申告方針を示すものではありません。実際の対応にあたっては、必ず専門家にご相談ください。

海外子会社やグループ会社との間でお金を貸し借りしている――。グローバルに事業を展開する企業にとって、この「グループ内貸付(intra-group loan)」はごく日常的な取引です。しかし近年、その貸付金利の水準が税務調査で厳しく問われるケースが増えています。本記事では、移転価格税制におけるグループ内貸付金利の考え方と、税務調査で論点になりやすいポイント、そして専門家による支援の重要性を解説します。

なぜグループ内貸付の「金利」が税務調査で問題になるのか

移転価格税制(租税特別措置法第66条の4)は、海外の関連会社との取引を、独立した第三者同士であれば成立したはずの価格=「独立企業間価格(arm’s length price)」で行うことを求めています。これは商品の売買だけでなく、お金の貸し借りの「金利」にも当てはまります。

グループ内の金利が独立企業間の水準より低ければ、本来日本で計上されるべき利息収入が海外に移転したとみなされ、課税当局から追徴を受けるリスクがあります。逆に高すぎても問題となり得ます。国境をまたぐ資金移動は金額も大きくなりがちで、税務調査の重点項目になりやすい領域です。

独立企業間金利の主な算定方法

グループ内貸付の独立企業間金利の算定には、いくつかのアプローチがあります。

1. 借手の信用格付けに基づく方法(CUP)

借手企業が市場で同条件の資金調達を行った場合に支払うであろう金利(信用格付けに対応する社債利回りなど)を比較対象とする方法です。課税当局が用いることの多い考え方で、OECD移転価格ガイドラインや移転価格事務運営要領を根拠とします。

2. リスクフリー利率+スプレッド(RF+S)

リスクフリー利率(国債利回り等)に、借手の信用リスクに応じた上乗せ(スプレッド)を加算する枠組みです。「RF+S」と呼ばれ、調査の現場でも算定の出発点として用いられます。

3. Cost of Funds アプローチ

貸手が実際に負担した資金調達コストを基礎に、貸付管理に要する費用と適正なマージンを積み上げて金利を算定する方法です。OECD移転価格ガイドライン(2022年版)第10章C.1.2.3(パラグラフ10.97〜10.100)で、グループ内貸付の独立企業間金利の算定方法として明示的に承認されています。その構成要素は、(a) 資金調達コスト、(b) 貸付の組成・管理費用、(c) 引き受けるリスクに対するプレミアム、(d) 利益マージン、と整理されます。

最大の論点 ――「機能・リスク分析」と『単に資金の提供を行うだけの貸手』

どの算定方法が「最も適切」かを決めるうえで決定的に重要なのが、機能・リスク分析(functional and risk analysis)です。

租税特別措置法第66条の4第2項は、独立企業間価格を「当事者が果たす機能その他の事情を勘案して」算定すべきと定めています。つまり、当事者が実際にどのような機能を担い、どのようなリスクを引き受けているかを見ることは、通達を待つまでもなく法律自体が求める事項です。

ここで鍵になるのが、移転価格事務運営要領3-8(3)が示す「単に資金の提供を行うだけの貸手」という概念です。貸手が、

  • 借手の信用力評価・モニタリング・デフォルト時の回収といった信用リスクの管理機能を実質的に担っていない
  • 金利変動などの市場リスクを管理する意思決定機能を有していない
  • 為替リスクを管理する機能・体制を有していない

といった場合、その貸手は信用リスク等を「コントロール」していないため、信用リスクに対応するスプレッド(上乗せ金利)を受け取る立場にないと整理されます。OECD移転価格ガイドラインのパラグラフ1.184〜1.187も、リスクを支配せず資金提供のみを行う者は「リスクフリー・リターンを超えない(no more than a risk-free return)」リターンに値するとし、同じ方向を示しています。

このように、「誰がリスクを管理しているか」という事実認定が、適用すべき金利水準を大きく左右します。原資が無利息の資金である場合や、貸手が中継点としての機能しか担っていない場合などは、借手格付けベースのスプレッドをそのまま貸手に帰属させることが適切でない、という主張が成り立ち得ます。

参照する通貨にも注意 ―― 貸手の機能通貨

リスクフリー利率を参照する場合、その通貨も重要です。OECD移転価格ガイドラインのパラグラフ1.189は、通貨リスクを排除するため、参照証券は投資者のキャッシュフローと同一通貨(投資者の機能通貨)建てによるべきとしています。たとえば貸手の原資が円建てであれば、円ベースのリスクフリー利率を基準とするのが整合的、という論点につながります。

過去の裁決例も手がかりになる

国税不服審判所の裁決例も、実務上の重要な手がかりです。たとえば、貸手が貸付原資を金融機関からの借入(有利子負債)によらず調達していた事案では、課税当局がスワップレートにスプレッドを加算した算定方法が、スプレッドの根拠の不存在等を理由に否定され、貸付と通貨・期間等が同様の国債利回りによる方法が採用された例があります。一方、原資を有利子負債で調達し、そのスプレッド情報が得られた事案では、スプレッド加算が相当とされています。貸手が原資をどのように調達しているかが、結論の分水嶺になり得ることを示しています。

税務調査では「建設的な終結」も視野に

移転価格の論点は白黒がつきにくく、理論的な立場を維持しつつも、事業年度内の建設的な終結を目指して、課税当局の枠組み(たとえばRF+Sの考え方)を基礎としながら具体的な提案水準・修正申告の方針を示す、という実務的な解決が図られることもあります。理論と実務の両面から、当局との対話を設計できるかが重要です。

こうした高度な国際税務対応を、iAPが支援します

グループ内貸付金利や移転価格の論点は、法令(措置法・通達・事務運営要領)、OECD移転価格ガイドライン、裁決・裁判例、そして実際の機能・リスクの事実認定が複雑に絡み合う、極めて専門性の高い領域です。さらに、海外本社や各国子会社との英語でのコミュニケーション、英文資料の作成も求められます。

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免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引に関する税務・法務上の助言ではありません。個別事案の対応にあたっては、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。